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自己破産10万人時代の法律扶助制度
大阪弁護士会消費者保護委員会副会長
弁護士 前川清成
1 大量破産時代
平成9年の個人破産が7万1000件余を超えた。今年はさらに10万件に達しそうな勢いである。昭和63年から平成9年までの10年間の累計は35万2000件になる。
アメリカの年間135万件(国民200人にひとりの割合)には及ばないが、日本にも大量破産時代が到来したことは明らかである。
2 サラ金破産
戦後一貫して破産件数は年間2000件程度であった。ところが、昭和59年に2万6384件を記録し、「サラ金破産」という言葉が人口に膾炎した。
サラ金破産当時、破産者は、サラ金業者の暴力的な取立、一家心中等の報道と相まって、被害者と認識されていた。
むしろ、サラ金業者の暴力的取立、109パーセントに近い高利こそが多重債務者を作り出しているとのコンセンサスが成立していた。
昭和58年、貸金業規制法が制定され、同法及び大蔵省銀行局通達によってサラ金の取立行為が具体的に禁止された。上記通達の禁止する取立行為は次の通りである。
@ 暴力的な態度
A 大声、乱暴な言葉
B 多人数で押し掛けること
C 午後9時から午前8時までの電話、電報、訪問
D はり紙、落書
E 他の業者からの借入、クレジットカードの利用による弁済の要求
F 支払義務のない者に対する請求、取立の協力依頼
これらの具体的な規制からも、当時のサラ金の取立行為がどのようなものであったか、容易に推測することができる。
3 カード破産
昭和58年に貸金業規制法が制定された結果、昭和60年以降一旦は破産件数も減少した。ところが、平成5年には再び2万3544件を超えた。この時は「カード破産」という言葉が流行語となった。
しかし、カード破産の破産者像に関しては、一部マスコミから安易な借入、とりわけ若者のカードの濫用による浪費に破産原因があるとする「借主責任論」が指摘された。
その背景としては、
@ 貸付の主役がサラ金から銀行カード会社に移ったこと、
A カード会社が、カードを持つことがステイタスであり、カードを使うことがおしゃれだというイメージを植えつけるコマーシャルを流し続けたこと
等が挙げられる。
4 破産者の実像
それでは、「借主責任論」はその通りであろうか。
日弁連消費者保護委員会は平成4年、同6年、同9年の三度に亘って、破産者の真実の実態を明らかにするために、破産事件記録を調査している。
平成4年には、全国21カ所の地方裁判所で合計530件、平成6年には高等所在地の8地方で合計779件、平成9年にも全国41カ所の地方裁判所において合計1089件の記録を調査している。
その結果、
A 破産原因、借入理由に関しては、
@ 平成4年の調査では借入理由を調べているが、借金の返済が289件で56.2パーセントで1位、以下、貧困が166件で31.3パーセント、本人、家族の病気が157件で29.6パーセント、保証債務の履行が116件で21.9パーセント、事業借金が99件で18.7パーセントと続く。
A 平成6年の調査では破産理由をタイプ別に調べているが、生活苦型が1位で45.1パーセント、事業経営失敗型が2位で16.15パーセント、3位は保証債務負担型で15.48パーセントである。
B 平成9年の調査では、破産理由につき生活苦、低所得が1位で20パーセント、負債、保証債務の返済が2位で14パーセント、3位はいずれも12パーセントで事業資金及び保証債務、第3者の肩代わりが並んでいる。
B 年齢に関しては
@ 平成4年の調査では
20歳代 17パーセント
30歳代 25パーセント
40歳代 28パーセント
50歳代 21パーセント
A 平成6年の調査では
20歳代 17パーセント
30歳代 25.5パーセント
40歳代 28.2パーセント
50歳代 19.3パーセント
B 平成9年の調査では
20歳代 14.8パーセント
30歳代 25.7パーセント
40歳代 25.5パーセント
50歳代 19.5パーセント |
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C 収入に関しては
@ 平成4年の調査では、年収100万円未満が34.8パーセント、年収200万円未満が26.3パーセントを占め、300万円未満の者が全体の80パーセントを越した。
A 平成6年の調査では、月収20万円未満が70.09パーセントであり、とりわけ女性の破産者のうち46パーセントの者は月収が10万円未満であった。
B 平成9年の調査では、月収が0から5万円が29パーセント、5から10万円が11パーセント、15から20万円が13パーセントとなっており、20万円以下が72パーセントを占めている。
D 最終学歴に関しては、
@ 平成4年の調査では
小・中学校卒 37.8パーセント
高校卒 36.2パーセント
専門学校卒 5.6パーセント
大学卒 6.0パーセント
A 平成6年の調査では学歴は調べていない
B 平成9年の調査では
小学校卒 2.94パーセント
中学校卒 25.80パーセント
高校卒 41.41パーセント
専門学校卒 6.06パーセント
大学卒 8.72パーセント
となっている。
因みに現在の高校進学率は約95パーセント、大学進学率は約40パーセントに達している。
これら調査から浮かび上がった破産者の実像は、
@ 若者の破産が決して多い訳ではなく、30代、40代という生活を支える世代の破産が多いこと
A 低所得者、低学歴者というまさに社会的弱者が、貧困や病気のために借入を始め、返済のために借金が膨らみ、破産に至ること
が明らかになる。
5 破産原因
それでは、年間10万件という個人破産件数の原因はどこに求められるのか。紙幅も尽きてきたが、平成9年の消費者借用残高は国家予算に匹敵する70兆円に達し、ここ10年間で約三倍に伸びている。
言うまでもなく、消費者借用に住宅ローンは含まれていないから、住宅ローンを除いて国民一人あたり56万円(人口を1億2500万人として)一世帯あたり207万円(一世帯3.71人で計算)の借金を抱えていることになる。庶民の生活は所得の伸びを遥かに上回る消費者信用産業の成長に飲み込まれてしまい、借金漬けの状態にあることを上の数字は示している。
このため、長引く不況と失業、リストラ、残業の減少によって収入が減ってしまったら、たちどころに家計が行き詰まってしまう。平成9年の7万1000件もかかるコンテクストで理解することができる。
6 法律扶助の現状
以上述べてきた破産者の実像に照らせば、法律扶助制度の現状があまりにも貧弱であることは多言を要しない。大幅な予算増額の必要は勿論である。また、扶助要件が、生活保護受給者に限定されているが、借金苦に苦しむ者は生活保護受給者に限られない。
何故多重債務者に対する法律扶助だけが、生活保護受給者という特別の要件を課せられねばならないのか、筆者には理解できない。
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