8/19 命の値段

午前9時、ホテルを出発して、チェンマイ市の中核病院であるナコンピン病院へ向かいました。ナコンピン病院のベットは520床、外来患者は1日1800人とのことです。
タイの地方医療の整備のために、日本は1996年以降、50億円の円借款を行っています。このナコンピン病院にも、4000万円の予算で、胃カメラやレントゲン、酸素吸入器、腹腔鏡等が導入されました。
ところで、タイでは現政権によって、公立病院における医療費は「1回30バーツ」という改革が行われました。30バーツ、日本円にしておよそ93円だけ支払えばよいという、医療制度改革です。
しかし、この「1回30バーツ」を裏付ける予算措置が取られていません。したがって当然のことながら、公立病院にあっても採算を維持するために、「安い薬」は出せても「高い薬」は出せないことになります。このため、金持ちは公立病院に行かないそうです。おそらく日本総領事館の皆さんも公立病院を利用していない様子です。というのも、「1回30バーツ」の意味はどなたもご存知ありませんし、これまでに疑問に思ったこともない様子でした。私が疑問に思ったのは、「1回」が「ひとつの病気」なのか、「入院あるいは通院1回」なのかです。例えば、ガンになってしまったとき、「ひとつの病気」ならば、仮に1月入院しても、30バーツ支払えば足りることになります。これに対して「入院あるいは通院1回」ならば、1月間の入院中、毎日30バーツ、1月で900バーツ支払わなければなりません。
病院の中を見学していますと、日本の援助による人工透析器がありました。あらためて、人工透析1回に30バーツなのか、あるいは腎臓病という1つの病気に関して30バーツなので、人工透析は何回受けても30バーツで済むのか尋ねましたところ、人工透析は1回あたり1800バーツという答えでした。1回1800バーツなら、1週間に2回としても、1ヶ月で1万4400バーツが必要です。
しかし、タイの平均月収は8000バーツ前後とのこと。とても、庶民に負担できる費用ではありません。私は人工透析器がない以上に残酷だと思いました。お金があれば人工透析によって命を永らえられても、普通の人々は人工透析費用の支払いが続けられずに死んでいく。彼らは、まさにお金や社会に対して恨みを残して死んでいかなければなりません。「財布の厚みで命の重さに違いがあってはならない」、この当たり前のことが、世界の国々でスタンダードになっていない現実をあらためて思い知らされました。
次いで、チェンマイ市芸術・文化センターを訪ねました。タイの地域開発事業への援助として、とりわけ主要な外貨収入源である観光産業を開発するために1993年以降、43億円の円借款が行われています。チェンマイ市でも、この芸術・文化センターの修復、整備、ピン川河畔の景観整備、城壁の修復等が行われました。同行した複数の議員から「なぜ日本の援助で修復したのに日の丸が付いていないのか」という質問が出ましたが、私は違う思いです。
例えば、東大寺の大仏殿がアメリカの援助で修理されたとしても、大仏殿に星条旗が翻っていたならば、私たち日本人はどう思うでしょうか。大阪城の天守閣の壁にユニオンジャックが描かれていたならば、私たちはイギリスに対してどのような感情を抱くでしょうか。
確かに貴重な税金による支援です。日本と日本人の好意を被援助国に理解して頂く必要はありますが、猛々しくないよう十分注意しなければなりません。この点で、今、所々で水色の「JICA」(独立行政法人国際協力機構)ステッカーが貼られています。「JICA」による援助であることを示すらしいのですが、役人根性、縄張り意識丸出しと言わざるを得ません。「JICA」なんかどうでもいいんです。日本の援助であることを分かってもらうことが大切であるのに「JICA」では、日本人だってJICAと言われても大半の人々が知らないのに、JAPANであると理解できる外国人が一体何人いるのでしょうか。
昼食の後、ドイ・ステープ寺に参拝しました。この参拝が、タイにおける唯一の観光となりました。
夕方から総領事公邸での夕食会。日本酒を頂いて、鮭の西京焼きと、漬け物を食べて満足しました。
【前川きよしげ本人が書いています】