相続登記の義務化

今年4月から「相続登記の義務化」がスタートします。

【相続登記の義務化】

 国土交通省の調査によると、いわゆる「所有者不明土地」、すなわち登記簿を見ても誰が所有者か分からなかったり、所有者に連絡がつかない土地が国土の24パーセントを占めています。日本の面積は37万8000平方キロメートルですから、その24パーセントは9万0720平方キロメートルになります。これに対して、北海道の面積は8万3450平方キロメートルです。したがって、北海道の面積よりも広い土地が「所有者不明土地」になっています。
「所有者不明土地」のうち62パーセントは所有者が亡くなっても、相続登記されていないことが原因です。
「所有者不明土地」が増えると、土地の利活用が阻害されてしまいます。

 そこで、2024(令和6)年4月1日から、土地や建物の所有者が死亡した場合、誰がその土地や建物を相続するか、3年以内に登記することを義務付ける改正不動産登記法が施行されます(不動産登記法第76条の2第1項)。したがって、2024年4月1日より前に発生した相続に関しては2027年3月末までに、2024年4月1日以降に発生した相続に関しては、被相続人(土地や建物を所有していた人)が亡くなった時から3年以内に誰がその土地や建物を引き継ぐか登記しなければならず、正当な理由がないにもかかわらず3年以内に登記しなければ10万円以下の「過料」を科されることになります(不動産登記法第164条)。
 被相続人が遺言を残していた場合も、相続人はその遺言によって土地や建物を取得したと知った日から3年以内に登記を申請する必要があります。

相続土地国庫帰属制度

「相続土地国庫帰属制度」について

【相続土地国庫帰属制度】

「負動産」という言葉で表現されるように、相続したものの、放置されたままの農地や山林、遠方にあるため管理ができない土地(例えば東京に住む子が親の残した島根県の土地を相続した場合)については、将来的には管理が行き届かず、「所有者不明土地」、すなわち登記簿を見ても誰が所有者か分からなかったり、所有者に連絡がつかない土地になるおそれが大きいと言えます。
そこで、相続した土地について国に引き取ってもらえる制度が2023年4月27日からスタートしました。

 「相続放棄」であれば、被相続人の遺産を一切引き継ぐことができませんが、「相続土地国庫帰属制度」を利用すれば、被相続人の遺産のうち預貯金や都市部の土地は引き継ぎ、遠方の農地や山林(要らない土地)だけ国に引き取ってもらうことも可能です。
但し、建物があったり、他人による利用が予定されている土地、有害物質で汚染されている土地、崖、境界や権利関係に争いのある土地などは国は引き取りません(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律第2条第3項)。したがって、建物のある土地であれば、所有者は建物を取り壊した後、国へ引き取りを申請します。また引き取ってもらう際、10年分の管理費に相当する負担金を納付しなければなりません(同法第10条第1項)。

遺言

1〔遺言が優先〕

2月9日に配信したメールマガジン第3号では民法が定める相続のルール(法定相続人、法定相続分)についてご紹介しましたが、亡くなった人が遺言を残していたら遺言が優先し、遺言に従って遺産が引き継がれます(民法第902条、908条第1項、第964条)。
但し、遺言も無制限ではありません。配偶者や子の「遺留分」を侵すことはできません(遺留分については、後日、あらためて説明します)。

2〔どんな場合に遺言が必要か?〕

遺言が必要な代表的なケースは、次の通りです。

①〈誰か1人に全て相続させたい場合〉

例えば夫婦に子どもがないと、夫が死亡したとき、妻と、夫の兄弟姉妹が相続人になりますが(夫の父母、祖父母が既に亡くなっている場合)、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、遺言を残せば妻に全てを引き継ぐことができます。

②〈事業を引き継いでくれる子に事業用の資産を引き継がせたい場合〉

例えばオーナー社長が、自らの事業を引き継いでくれる長男に事業に必要な財産(店舗や工場、自社株など)を相続させたい場合、遺言がなければ、事業を引き継ぐ長男も、東京でサラリーマンをしている次男も、全ての財産を同じ割合で相続することになりますが、遺言を残しておけば、例えば長男に事業に必要な財産を、次男に預貯金を相続させて、事業を次世代へ引き継ぐことができます。

③〈法定相続人以外にも財産を残したい場合〉

長年連れ添った事実上の配偶者であっても、婚姻届を提出していなかったなら(いわゆる内縁の妻)は法定相続人ではありません。あるいは身体が不自由になった後、身の回りの世話をしてくれた「息子の嫁」も法定相続人ではありません。内縁の妻や、身の回りの世話をしてくれた人に財産を残すには遺言が必要です。

④〈相続人がもめないように〉

遺産の分け方で相続人たちがもめないように、誰が、何を引き継ぐか、遺言で決めておくこともできます。

⑤〈法定相続人の誰かが行方不明〉

今年に入って2件、「相続人のうち1人が行方不明で、遺産分割協議ができない。」とご相談がありましたが、遺言がなければ、法定相続人全員のハンコがないと、被相続人の預金を引き出すことさえできません。

【遺言の作り方】

3〔口頭ではダメ〕

それでは、遺言はどのように作るのでしょうか? テレビや映画のように、臨終に際して口頭で言い残したとしても法律上、遺言とは扱われません。遺言は民法が定める方式に従って「書面」を作る必要があります(民法第960条)。

よく利用される遺言の方式は、自筆証書遺言と、公正証書遺言です。

4〔自筆証書遺言〕

自筆証書遺言は、遺言を作りたい人が、その全文と、日付、氏名を自署し、捺印します(民法第968条第1項)。つまり、ワープロで作った自筆証書遺言は法律上、無効です。但し、2018年の相続法改正によって財産目録はワープロやコピーでも構わないことになりました(民法第968条第2項)。

5〔公正証書遺言〕

公正証書遺言というのは、遺言を作りたい人が公証役場へ行って、公証人に遺言の内容を伝え、公証人が口述を書き記して作る遺言です(民法第969条第1項)。
ザックリ言うと、自筆証書遺言はタダだけど「危険」。
公正証書遺言は少し手数料がかかるけど、安全、確実です。

6〔お勧めは公正証書遺言〕

日付を「昭和41年7月吉日」と書かれた自筆証書遺言について、最高裁は「日付の記載を欠く」ことを理由に無効としたように(最高裁判決昭和54年5月31日)、一般人が自筆証書遺言を作ることは容易ではありませんし、遺言が「登場」するのは作成者が亡くなった後ですので、もう作り直すこともできません。

それにコッソリ自筆証書遺言を作ったとしても、亡くなった後、発見されないこともあれば、その自筆証書遺言で損をする人が隠してしまうこともあります。

ですから、私は「遺言を作りたいのですが。」とご相談を受けた場合、例外なく、公正証書遺言をお勧めしています。証人には、私と前川清成法律事務所の事務員がなりますので、利害関係者に知られずに、コッソリ作ることも可能です。

前川清成法律事務所では、公正証書遺言の作成について、手数料15万円で承っています(別途消費税及び公証人手数料等実費)。

法定相続人

1【相続のルール】

人が亡くなると、亡くなった人が持っていた不動産や預貯金などのプラスの財産も、借金や保証などのマイナスの財産も、配偶者や子どもらが引き継ぐことになります。このように人の死亡による財産の承継を「相続」と言います。

亡くなった人(民法では「被相続人」と言います)の財産を、遺族の誰が、どれだけ引き継ぐかに関しては、民法第882条以下に定められています。民法に従った相続を「法定相続」と言います。

亡くなった人が遺言を残していたなら、法定相続よりも遺言が優先しますが(民法第902条、908条第1項、第964条)、遺言がなければ、「法定相続人」が「法定相続分」の通り、亡くなった人の財産を引き継ぎます。

ザックリ言うと、遺言があれば、遺言の通り(但し、「遺留分」の制限)。
遺言がなければ、法定相続人が、法定相続分の通り。

2【法定相続人】

民法のルールによって相続人になる人を「法定相続人」と言います。
それでは、民法は誰を相続人と定めているでしょうか。

①〔配偶者〕

民法第890条には「被相続人の配偶者は、常に相続人になる。」と書かれています。したがって、夫が亡くなれば妻が、妻が亡くなれば夫が相続人になります。

なお、ここに言う配偶者は、婚姻届を提出した夫婦に限られます。「内縁」あるいは「事実婚」の配偶者は法定相続人になりません(最高裁決定平成12年3月10日)。

②〔子ども〕

民法第887条第1項には「被相続人の子は、相続人になる。」と書かれています。子は第1順位の相続人です。
子は認知された非嫡出子(結婚していない男女の間に生まれた子)や、養子も含みます。父が死亡した時、まだ母のお腹の中いた子(胎児)も生きて生まれてきた場合は相続人になります(民法第886条第1項)。

子が親よりも先に亡くなっている場合、孫が相続人になります(民法第887条第2項)。これを「代襲相続」と言います。

③〔直系尊属、兄弟姉妹〕

子がいない場合は、亡くなった人の直系尊属(父母や祖父母)が、直系尊属もいなければ兄弟姉妹が法定相続人になります(民法第889条第1項)。

3【法定相続分】

①〔妻と子が相続人の場合は1/2ずつ〕

夫が妻と子を残して死亡したとき、法定相続人は妻と子です(民法第887条第1項、第890条)。その場合、妻と子は2分の1ずつの割合で夫の財産を引き継ぎます(民法第900条第1号)。 

このように民法が定めた亡くなった人の財産を引き継ぐ割合を「法定相続分」と言います。 子が2人いたなら、子の法定相続分、2分の1を2人で分けます(民法第900条第4号)。したがって、子1人の法定相続分は4分の1になります。子が3人いたなら、子1人の法定相続分は6分の1です。

②〔妻と父母の場合は妻が2/3〕

亡くなった人に子がいなかったら、その人の父母が法定相続人になりますが(民法第889条第1項第1号)、その場合、妻の法定相続分は3分の2、父母の法定相続分は3分の1です(民法第900条第2号)。

③〔妻と兄弟姉妹の場合は妻が3/4〕

亡くなった人に子も、父母もいない場合は、兄弟姉妹が法定相続人になりますが(民法第889条第1項第2号)、その場合、妻の法定相続分は4分の3、兄弟姉妹の法定相続分は4分の1です(民法第900条第3号)。

兄弟姉妹が2人いたなら、兄弟姉妹の法定相続分、4分の1を2人で分けます(民法第900条第4号)。したがって、兄弟姉妹1人の法定相続分は8分の1です。

特別受益、寄与分

【特別受益】

ザックリ言うと、相続人のうち誰かが「えこひいき」(生前贈与や遺贈)してもらっていたなら、その分は相続時に清算されます。これを「特別受益」と言います。

例えば、父が亡くなり、母と、子2人が相続人という場合、法定相続分は妻が1/2、子は1/4(1/2×1/2)です。
ところが、例えば、2人の兄弟のうち弟だけが亡父から2000万円の生前贈与を受けていた場合、この2000万円を無視して、兄も、弟も1/4ずつでは不公平です。

そこで、相続分を決めるにあたって、遺産に生前贈与、遺贈を加えたものを遺産とみなして清算します。例えば、亡父が1億円の遺産を残していたなら、1億円に2000万円を加えた1億2000万円を遺産とみなし、母はその1/2の6000万円、兄は1/4の3000万円、弟は3000万円から生前贈与で受けた2000万円を差し引いた1000万円を相続します(民法第903条第1項)。

【超過特別受益】

それでは、上の例で弟が2000万円ではなくて、4000万円の生前贈与を受けていた場合は、どうなるのでしょうか?

父の遺産1億円に、弟が生前贈与を受けた4000万円を加えると、1億4000万円です。1億4000万円の1/4(弟の法定相続分)は3500万円ですから、弟は500万円の「もらいすぎ」になります。

それでは、弟は500万円を母や兄に返さなければならないのでしょうか?
この点に関して、民法第903条第2項は「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」と定めています。したがって、弟は遺産からは何も受け取ることはできませんが、500万円を返す必要もありません。

それなら、母と、兄は1億円をどう分けたらいいのでしょうか?
この点に関しては、民法その他法律にルールが決められていません。裁判例もありません。
このように法律にも「穴」があります。時々「間違い」もあります。人間が作るものですから。

【寄与分】

ザックリ言うと、亡くなった人の財産形成や維持に「特別の」貢献をした相続人は「ボーナス」をもらえます。これを「寄与分」と言います(民法第904条の2第1項)。くどいかも知れませんが、貢献ではなく、「特別の貢献」です。

例えば、亡くなった父は商売をしていましたが、2人の兄弟のうち兄は、社会人になった後、都会でサラリーマンをしていて、家業には携わっていない、他方、弟は亡父と一緒に家業に従事して、弟の才覚や努力で亡父の商売は繁盛し、その結果、亡父は「お金持ち」になったにもかかわらず、弟はそれに相応しい報酬を得ていなかったというケースでは、弟の貢献を無視して、兄も、弟も同じ相続分では不公平です。そこで、弟は「ボーナス」がもらえます。

弟の「ボーナス」について、相続人間で合意できない場合、家庭裁判所が決めます(民法第904条の2第2項)。

【2021年の民法改正】

特別受益や寄与分に関しても、時間が経過すると、証拠が散逸したり、関係者の記憶が曖昧になって手続きがスムーズに進まなくなります。そこで、2021年の民法改正において、相続開始から10年が経過した後の遺産分割においては、特別受益や寄与分の規定は適用されないことになりました(民法第904条の3)。メールマガジン第1号でもご紹介した通り、遺産分割協議や相続手続きを「ほったらかし」にした結果、相続人が誰か分からない土地が増えています。この民法改正も早期の遺産分割協議を促す意図があります。

遺留分

1〔遺留分って何?〕

【遺言】の記事の中でも、相続のルールに関して、
ザックリ言うと、遺言があれば、遺言の通り。遺言がなければ、法定相続人が、法定相続分の通り。
とご説明しておりますが、遺言も無制限ではありません。

例えば、夫が亡くなった後、「全財産を愛人に贈与する。」と書かれた夫の遺言が出てきたら、妻はいかがでしょうか。
生前、自分の財産を処分することは自由です。
そうであれば、死後の処分も自由にしても構わないでしょうか。
しかし、「全財産を愛人に贈与する。」のような勝手気ままな遺言によって、長年連れ添い、夫の財産形成にも協力した妻や子が、遺産を一切相続することができず、生活が困窮するようではあまりに気の毒です。
そこで、民法は相続人の「最低保障」を定めました。これを遺留分と言います。言い換えれば、遺留分とは、亡くなった人(被相続人と言います)の意思(生前贈与や遺言)によって奪うことのできない相続人の取り分です。

2〔遺留分の割合-妻や子〕

配偶者や子の遺留分は法定相続分の2分の1です(民法第1042条第1項第2号)。相続人が数人いる場合、この遺留分率に法定相続分率を掛けますが(民法第1042条第2項)、メールマガジン第3号で紹介した通り、配偶者と子が相続人の場合、法定相続分は2分1ずつです(民法第900条第1号)。したがって、妻の「最低保障」は夫の遺産の4分の1になります。

3〔遺留分の割合-直系尊属、兄弟姉妹〕

亡くなった方に子がいなければ、直系尊属(父母や祖父母)が相続人になりますが(民法第889条第1項第1号)、直系尊属の遺留分は3分の1です(民法第1042条第1項第1号)。
亡くなった方に子も、直系尊属もいなければ、兄弟姉妹が相続人になりますが(民法第889条第1項第2号)、兄弟姉妹には遺留分は認められません(民法第1042条第1項)。

4〔遺留分侵害額の請求〕

「最低保障」が侵害された場合、1の例で言うと妻や子は愛人に対して「最低保障」に相当する金銭の支払いを請求することができます(民法第1046条第1項)。2018年の相続法改正によって請求することができるのは金銭だけになりました。