借金や保証で、どうしようもなくなったとき

病気や失業、事業の失敗、保証人になってしまったなど様々な理由で、多額の借金をしてしまい、生活が困窮した場合(「多重債務」と言います)、かつては(1)自己破産か、(2)民事調停、(3)任意整理しか救済メニューがありませんでした。

しかし、民事調停や任意整理では全ての債権者から同意を得る必要がありますが、サラ金やカード会社は、分割払いの場合、元金のカットに応じませんし、短期間の完済を求めます。市役所や税務署(税金の滞納分)の対応は、杓子定規で、高利貸しよりも苛斂誅求です(この人たちには「公務」員の自覚がないのかと不思議に思うことさえあります)。その結果、多重債務からの救済手段としては自己破産が主要な役割を担っていました。ですから、まだ「グレーゾーン金利」(=サラ金やカード会社が取り立てていた利息制限法を超える高利)が違法ではなかった2003年、1年間の破産件数が24万2357件にも達しました。

裁判所に自己破産を申し立てて、裁判所から「免責」の決定を得たなら、借金や保証債務は免除されます(破産法第253条第1項)。このため、多重債務に対する救済手段として自己破産は重要です。

自己破産の限界=破産手続きでは救済されない人たち

(1) ギャンブルや浪費による借金

ただ、自己破産しても、多重債務に至った原因がギャンブルや浪費などの場合、免責(=借金の免除)が得られません(破産法第252条第1項)

確かに「借りたカネは返さなければならない。」は、私たちの基本的な道徳の1つですし、たとえ高利貸しといえども大事なお金を貸しているので、裁判所がパチンコやキャバクラで作った借金を免除してしまうことは、我々の法感情と相容れないのかも知れません。

とはいえ、医者が酒を飲み過ぎて病気になった患者に対して「自業自得です。死ぬしかありませんね。」とは言わないように、弁護士もパチンコやキャバクラが原因で首が回らなくなった多重債務者に対して「夜逃げするか、首をくくるかしかありませんね。」とは言えません。命以上に大切なものなどありません。借金の原因を猛省するべきことは当然ですが、がんばっても、がんばっても、どうしようもない程、借金を抱えた人たちに対しては、たとえ借金の原因がギャンブルや浪費などであったとしても、救済メニューが必要なはずです

(2) マイホームを失いたくない

破産は債務者の財産を清算する手続きです(但し、めぼしい財産がなければ清算手続きは省略されます。これを「同時廃止」と言います)。したがって、自宅も手放すことになりますが、生活の本拠である自宅を失うと多重債務からの更生が困難になることが少なくありません。

個人再生手続の創設

そこで、民事再生法が改正されました。それまでの民事再生は、例えばマイカルや、そごう、杉の井ホテル、レナウン、スカイマーク、川奈ホテル、本間ゴルフなどの倒産(2001年以降に倒産した会社も含んでいます)に際して、その会社が事業を再生するため利用されていましたが、2000年の改正で、個人の債務者も民事再生を利用することができるようになりました。そして、法律が定める「最低弁済額」を支払ったなら、残りの借金は免除されるようになりました。

この個人版の民事再生を「個人再生」と呼んでいます。

個人再生には、小規模個人再生と、給与所得者等再生の2種類がありますが、実務では申立件数の約95パーセントを「小規模個人再生」が占めています。
小規模個人再生は個人事業者に限らず、給与所得者(サラリーマンや公務員)も利用可能です。

したがって、以下では小規模個人再生についてご説明します。

小規模個人再生

(1) 利用できるのは?

小規模個人再生を利用できるのは、ⓐ住宅ローンや抵当権でカバーされていない債務、言い換えると無担保の借金の合計が5000万円以下で、ⓑ将来において継続的または反復的に収入を得る見込みのある、ⓒ個人です(民事再生法第221条第1項)。

(2) 最低弁済額

自己破産とは異なり、個人再生においては免責(借金の免除)を受けるためには、法律が定めた割合、金額を、原則として3年、特別な事情があれば5年以内(民事再生法第229条第2項第2号)に返済しなければなりません。これを「最低弁済額」と言います。

小規模個人再生における最低弁済額は下記①及び②を超える額です。

(1) 基準債権額の5分の1(但し、3000万円以下の場合。3000万円を超える場合は10分の1。民事再生法第231条第2項第3号、第4号)。

基準債権額とは、ザックリ言うと住宅ローン以外の借金です。
但し、最低弁済額は、

基準債権額が100万円未満なら、借金の全額
基準債権額の5分の1が100万円未満なら、100万円
基準債権額の5分の1が300万円以上なら、300万円です(民事再生法第231条第2項第4号)。

(2) 破産の場合の配当額よりも多い額(清算価値保障原則。民事再生法第230条第2項、第174条第2項第4号)

(3) ギャンブルや浪費による借金も免責

民事再生法には、破産法とは異なり、「ギャンブルや浪費による借金は免除しないぞ」と定めた条項がありません。したがって、ギャンブルや浪費が原因で多重債務に陥ったとしても、最低弁済額を返済すれば、残りの借金は免除されます。

(4) マイホームの確保

破産は債務者の財産を清算する手続きです(但し、めぼしい財産がなければ清算手続きは省略されます。これを「同時廃止」と言います)。したがって、破産では破産者は自宅も手放す(破産管財人が売却して、その代金を債権者に弁済する)ことになりますが、生活の本拠である自宅を失うと多重債務からの更生が困難になることが少なくありません。

そこで、個人再生においては、自宅を維持したい債務者については、「住宅資金特別条項」を定めた上で、住宅ローンを契約通り支払い続けたなら、引き続き自宅に住み続けることが可能になりました。

但し、住宅ローンに関しては、5でご説明した最低弁済額とは別枠で返済を続けます。

余談ですが、三菱UFJ銀行がアコム、三井住友銀行がプロミス、新生銀行がレイクを買い取りました。資本主義というものは、カネさえ儲かったら何をしても構わないという仕組みではないはずです。資本主義のインフラである銀行が、何の恥じらいもなくサラ金を営む様子に違和感を覚えるのは私だけでしょうか。シャイロック(ベニスの商人)に問うてみたい気もします。