民法改正(2020年4月、改正法施行)

民法改正(2020年4月、改正法施行)

【120年ぶり】
昨年の通常国会において、契約などのルールを定めた民法(債権法)が改正され、2020年4月1日から施行される運びとなりました。
私たちの暮らしに最も関わる法律の、120年ぶりの大改正です。

【民法の歴史】
この機会に少しだけ民法の歴史にお付き合い下さい。
今年は明治維新から150年になりますが、幕末に徳川幕府が欧米列強と締結した不平等条約には「治外法権」が定められており、外国人が日本で事件を起こしたとしても、日本の司法権に服すことがありませんでした。というのも、当時、日本には民法、刑法などの法律が無く、また法律を運用できる裁判官や弁護士などの法律家も存在しませんでした。
「尊王攘夷」の狂騒の中から誕生した明治政府としては是が非でも不平等条約を改正しなければならず、ご案内の通り鹿鳴館で舞踏会を催すなど、なりふり構わず「文明国」であることを示そうとしましたが、そもそも法律が無ければ、日本法に基づく裁判は不可能です。明治初年、司法卿であった江藤新平は「フランス民法と書いてあるのを日本民法と書き直せばよい。誤訳でもよい。ともかく急げ」と命じたそうです。
その後、明治政府はパリ大学助教授であったボアソナード(法政大学の創設者)ら「御雇外国人」を招聘するなどして近代法の整備に取り組みました。ボアソナードはフランス民法をベ一スにして、10年がかりで民法(旧民法)を起草しましたが、「民法出デテ忠孝滅ブ」と反対が起こり、施行できず、新たに穂積陳重、富井政章、梅謙次郎ら日本人によって起草された現行民法が1896(明治29)年公布され、明治31年から施行されました。

【財産法は120年前のまま】
その後、民法のうち親族法、相続法に関しては、1947(昭和22)年に戦前の「家」制度は封建的であり、「新憲法と相容れない」として全面改正されましたが、財産法に関しては2004(平成16)年にカタカナ文語体からひらがな口語体へ表記が改められただけで、内容に関しては基本的に120年前のままでした。

【契約法を中心に改正】
ところで、市民生活や取引が120年前と現在とでは大きく変化していることは言うまでもありません。
そこで、2009(平成21)年10月、民主党政権発足直後に千葉景子法務大臣から法制審議会へ「制定以来の社会・経済の変化への対応」などについて諮問があり、先ずは国民生活や経済活動に関わりの深い契約法を中心に改正議論がスタートしました。
私も2009年10月、「民主党・債権法検討ワーキングチーム」の座長に就任し、当時、おそらく与野党国会議員の中で最も熱心に民法改正に取り組みました。

【「身分から契約へ」】
と言いますのも、民法こそが国民の自由と平等を保障する基本法だからです。
近代市民革命以前(日本では明治維新前)、人々は決して自由ではなく、平等でもありませんでした。
例えば職業に関して言えば、殿様の家に、しかも長男に生まれたら、やがて殿様になり、父親と同じ収入を得ました。百姓の家に生まれたら、百姓になりました。つまり、人々の職業や収入はどの家に生まれたか、すなわち「身分」によって決められていました。住む場所も、結婚する相手も「身分」によって決められていました。
近代市民革命はこれら封建的呪縛を取り除き、民法によって、人々は皆、対等な当事者として競争し、創意工夫して、自由に契約を結ぶことを保障しました。
言い換えれば、人々がどのような仕事をして、どれだけの収入を得るか、どこに住むか、誰と結婚するかなど自らの権利や義務について、自らが自由な「契約」によって決めることができるようになりました。
これを「契約自由の原則」と呼びます。近代私法の3大原則の1つです。
だからこそ、イギリスの法制史家、メーンは封建時代から近代社会への進化を「身分から契約へ」と表現しています。
改正内容の全てについてここでご説明させて頂くことは困難ですが、3点だけ紹介させて頂きますと、

【保証】
改正民法においては、経営者以外の者が事業資金の借入について保証する場合(いわゆる第三者保証)、保証契約締結前の1ヶ月以内に公証人役場へ行き、公正証書で保証する意思を確認しなければなりません。
また借主が誰かに保証人になって欲しいと頼む際には、自分の財産や収支状況等を説明しなければならず、借主がウソを説明し、貸主もウソの説明と分かっていた場合、保証人は保証契約を取り消すことができます。
これら保証契約の厳格化は消費者保護を志向した改正です。しかし、業界団体の圧力で骨抜きになり、民主党政権で実現した「第三者保証の禁止」(金融庁事務ガイドライン)から大きく後退してしまいました。金融実務では「本人保証」も制限しようとしていますが、この点には手付かずです。
私は金融副大臣当時も訴えた通り、個人保証に依存しない金融実務を実現しなければ、現在の成熟した社会にあってはリスクに挑戦する者は少なく、その結果、ベンチャー企業は育たないし、世界に伍して、先駆けるイノベ一ションも生まれず、日本の豊かさも維持できなくなると考えています。個人保証と不動産担保に依存していたら預貸率は低いままで、金融機関もやがて経営が成り立たなくなると思います。
もう1歩、前へ進めるべきでした。

【約款】
皆様も金融機関で預金口座を開くとき、あるいは携帯電話を購入するときに、金融機関や携帯電話会社が「約款」という小さな文字で書かれた複雑なルールを持ち出してきた経験をお持ちかと存じます。
もしかすると、せっかく保険に加入していたのに保険会社がそれまでに見たこともない「約款」を盾に保険金の支払いを拒んだという嫌な経験をお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。
ところが、これまで民法に約款に関するルールはありませんでした。つまり今まで民法において約款は野放しでした。そこで改正民法においては、約款を作成した者は、取引相手に約款の内容を開示しなければならず、正当な理由なく開示しない場合、その取引に約款は適用されないと定めました。また約款が取引の実情や社会通念等に照らして相手方の利益を一方的に害すると認められる場合、その約款は効力を持たないと定めました。
私からすれば、昨今、金融機関や携帯電話会社等による「約款の濫用」は目に余ります。民法は対等な当事者間の自由な契約を保障しましたが、この120年の間に契約の大半は寡占企業と消費者との消費者契約が占めるようになり、そこには契約交渉はなく、契約書も作成されません。寡占企業が自らの都合を押し通すために作成した約款が用いられて、消費者は約款を受諾するか、その契約を諦めるか、の選択しか許されません。したがって、今回の改正で不十分ながらも約款に制限が加えられたことは評価しています。

【消滅時効期間】
友だちにおカネを貸してあげても、10年間、そのままにしていると返してもらえなくなります。この制度を「消滅時効」と言います。
消滅時効が成立するのに要する時間(消滅時効期間)は、現行法では、友だちや知人とのおカネの賃借なら10年、飲食代金債権は1年、商品販売代金債権は2年、建設工事請負代金債権は3年と言った具合に、債権の種類毎に様々でした。
改正民法においては、消滅時効が成立する期間が概ね5年に統ーされます。
したがって、上記飲食代金、商品販売代金、建設工事請負代金債権等については延長されますが、例えば友だちにおカネを貸した場合(現行10年)は短縮されることになります。
賃金(労働基準法115条)については2年、不法行為に基づく損害賠償請求権は3年ないし20年のままです。
詳しくは別表をご参照下さい。

【消滅時効期間】(出許期間も含めて)

債権の種類 現行法 改正法
一般の債権 10年(民法167-1) A債権者が権利を行使できることを知った時から5年
B権利を行使できる時から10年(改正民法166-1)

但し、人の生命、身体の侵害(例えば、安全配慮義務違反や医療過誤)に基づく損害賠償請求に関してはBは20年(改正民法167)

商行為によって生じた債権 5年(商法522)
医師や助産師、薬剤師の診察、助産、調剤に関する債権 3年(民法170①)
工事の設計、施工、監理を業とする者の工事に関する債権 3年(民法170②)
弁護士、公証人が職務に関して預かった書類の返還 3年(民法171)
弁護土、公証人の報酬 2年(民法172②)
卸売、小売等の商品販売代金 2年(民法173①)
運送費 1年(民法174③)
宿泊代、飲食代 1年(民法174④)
動産賃貸借の賃料 1年(民法174⑤)
債権、所有権以外の財産権(例えば地上権、地役権) 20年(民法167-2) 同じ(改正民法166-2)
抵当権 担保する債権と同時(民法396) 改正なし
所有権 消滅時効にかかわらない(解釈) 改正なし
不法行為に基づく損害賠償 A損害及び加害者を知った時から3年
B不法行為の時から20年(民法724)
但し、Bについては時効ではなく除斥期間(中断等ない。最高裁判決)
Aのうち、人の生命、身体を害する不法行為については5年(改正民法724の2)、その他不法行為は3年のまま
Bに関して時効であることを明記(改正民法724)
自賠責保険への被害者請求 3年(自賠法19) 改正なし
手形 3年(手形法70、77⑧) 改正なし
小切手 6ヵ月(小切手法51) 改正なし
賃金 2年(労働基準法115) 改正なし
退職金 5年(労働基準法115) 改正なし
財産分与 2年(民法768-2) 改正なし
相続放棄 被相続人の死亡あるいは先順位の相続人の相続放棄を知った日から3ヵ月(民法915-1) 改正なし
遺留分減殺請求 被相続人の死亡及び遺留分侵害を知った時から1年あるいは被相続人の死亡から10年(民法1042) 改正なし
保険金等 3年(保険法95) 同じ(改正により明確化)
保険料 1年(保険法95) 同じ(改正により明確化)

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