債権法改正のポイント6 解除

1【解除の機能】

債権者は、債務者が契約に基づく債務を履行しない場合には一定の手続きを経た上でその契約を白紙に戻して、その契約の拘束から逃れることができます。これを契約の「解除」と言います。

例えば、A(売主)はBに対して、ある物(目的物)を売り渡し、B(買主)はAに対してその代金を支払うという売買契約において、Aが履行期(約束した日時)を過ぎてもBに目的物を引き渡さない場合、Bは「相当の期間」を定めてAに催告し、その「相当の期間」内にAが引き渡さなければ、Bはその売買契約を解除することができます(新法第540条以下)。

その結果、Bはこの売買契約に基づく債務(代金の支払い、目的物の受領)から解放されて、新たに他の者と契約し、他から目的物を入手することが可能になります。
もし契約が解除できる制度がなかったら、BはAに対して目的物の引き渡しを求める裁判を起こして、その判決に基づいて強制執行して、Aから目的物の引き渡しを受けることになりますが、裁判や強制執行のためには「時間」も「費用」を要します。

2【催告が必要ない場合】

1で言及した通り、契約を解除するにあたっては、原則として「相当の期間」を定めて、「履行を催告」しなければなりません(新法第541条)。

ところが、催告することが無意味な場合もあります。
例えば、和菓子屋を営むAが、5月5日の「こどもの日」に柏餅を販売しようと思い、B工場から5月3日までに納入してもらう約束で柏餅100個を1万円で仕入れた場合です。この場合5月5日が過ぎてしまうと、AがBから柏餅を仕入れた意味がありません。

そこで、旧法でも「契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日又は一定の期間内に履行しなければ契約をした目的を達成することができない場合」は催告を要することなく解除することができると定めていました(旧法第542条)。

新法においては、無催告で解除できるケースを整理して、次の場合には催告する必要がないと規定しています(新法第542条第1項)。

① 債務の履行が不可能な場合
② 債務者が履行を拒絶する意向を明確に表しているとき
③ 債務の一部の履行が不可能になり、または債務者が債務の一部について履行を拒絶する意向を明確にしている場合であって、残りの部分だけでは、契約の目的を達成することができない場合
④ 契約の性質あるいは当事者の意思表示によって、特定の日時または一定の期間内に履行しなければ、その契約を結んだ目的を達成できない場合において、債務者が履行しないでその時期を経過したとき
⑤ 債権者が催告しても、契約の目的を達成するための履行がなされる見込みがないことが明らかなとき

但し、これらは、いずれも従前、解釈や判例で無催告解除が認められていたケースで、実務に変更はありません。
⑤に関しては、A社の運営するショッピングセンターの区画をAから賃借し、店舗を営んでいたBが、粗暴な言動で他のテナントともめ事を起こし、それを注意したA社の社長を暴行したという事例において、Bの行為によってAB間の信頼関係は破壊されてしまったので、Aは催告することなく、AB間の賃貸借契約を解除することができると判示した最高裁判例があります(最高裁判決昭和50年2月20日)。

3【債務者に帰責事由がない場合の解除】

ポイント 債務者に落ち度がなくても、解除可能に改正されました。

旧法においては、債務者に帰責事由(責任)がなければ、債権者は契約を解除することができないと定められていました(旧法第543条但書き)。
その結果、契約内容が履行されなかったとしても、その不履行に関して債務者に責任がなければ、債権者はずっとその契約に拘束され続けることになり、他の取引先から代替的な取引ができませんでした。

例えば、ドラッグストアを経営するA社が、B工場からマスク1万枚を仕入れて販売しようしたところ、B工場周辺で新型コロナ肺炎が流行し、工場を閉鎖せざるを得なくなり、マスクが納入されず、工場再開の目途も立たない場合、AはいつまでもBの工場再開を待ち続けなければなりませんでした。しかし、それではAは「商機」を逸してしまいます。

そこで、新法においては、解除の要件から「債務者の帰責事由」を外しました。この結果、上の例では、Aは、一方ではBとの契約を解除して契約を白紙に戻し、他方、C工場と契約し、Cからマスクを仕入れることを選択できるようになりました。
但し、債権者に帰責事由がある場合は、債権者から解除することはできません(新法第543条)。故意に債務の履行を妨げて、契約の拘束力を逃れようとする不心得者を許さないためです。

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