債権法改正のポイント7 賃貸借

1【賃借人の現状回復義務】

ポイント 普通に使っていてもつく汚れや傷は賃貸人の負担です。

賃貸借契約が終了した場合、賃借人は、賃借物を借りた当時の状態に戻して賃貸人に返還しなければなりません。これを「原状回復義務」と言います。
ところが、旧法では、賃貸借契約における賃借人の原状回復義務に関しては旧法第616条が使用貸借における「借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。」と規定した旧法第598条を準用するだけで、原状回復の範囲等に関する明文はありませんでした。

他方、建物賃貸借契約(オフィスビルや住居の賃貸借契約)終了時、賃貸人は、経年劣化や通常損耗(普通に使っていてもつく汚れや傷。例えば冷蔵庫やテレビによる壁の黒ずみとか、家具を置いたことによるカーペットのへこみなど)のリフォーム費用(例えば、畳替えやフローリング、壁紙の貼り替え費用)までも賃借人へ負担を求め、敷金から差し引いて返還するのが一般的でした。

しかし、建物賃貸借契約においても、賃借人が建物を使用する以上、通常に使用する範囲で建物が損耗し、経年劣化することは当然であり、賃貸人はこれら損耗等も勘案した上で賃料を決定し、受領しているはずです。
最高裁判例も「建物の賃貸借契約においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払いを受けることによって行われている。」と述べています(最高裁判決平成17年12月16日)。

そこで、新法は、賃借人の原状回復義務に関して、賃借人は、賃借物を受け取った後、賃借物に生じた損傷を原状に復する義務を負うものの、

㋐ 通常の使用及び収益によって生じた損耗や賃借物の経年変化、
㋑ 賃借人の責めに帰すことができない事由によるもの

に関しては原状回復義務を負わないと定めました(新法第621条)。

2【敷金】

賃貸借契約締結時に賃借人から賃貸人へ交付される「敷金」に関して、旧法には規定がなく、よって、敷金の返還義務や返還時期等に関しては判例によって処理されていました。

そこで、新法は、敷金に関する定義や、返還時期等に関する条文を新設しましたが(新法第622条の2)、いずれもこれまでの判例を追認しており、実務に変更はありません。

3【存続期間】

旧法は、賃貸借契約の存続期間に関して「20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は20年とする。」と規定していましたが(旧法第604条第1項)、新法は上限を50年に変更しました(新法第604条第1項)。
ゴルフ場の敷地や、太陽光発電パネルを設置するための土地賃貸借契約には借地借家法が適用されませんので、これらの長期間の土地利用が必要な賃貸借契約において実務のニーズがあると思われます。

なお、建物所有を目的とした土地賃貸借契約や、建物賃貸借契約においては存続期間の上限はありません(借地借家法第3条、同法第29条第2項)。

4【修繕義務】

旧法は、賃貸人が賃借物の修繕義務を負うとだけ定めていましたが(旧法第606条)、新法は、賃借人の責に帰すべき事由によって修繕が必要になった場合は、賃貸人は修繕義務を負わないと定めました(新法第606条第1項但書き)。
ただ、賃貸人においては、たとえ修繕義務を負わないにせよ、賃借物(多くの場合は自己の所有物)が修繕を要する状態になった場合、管理上、そのことを知りたいはずです。

そこで、賃貸人サイドにおいては、賃貸借契約書に、例えば「本居室及び甲(賃借人)の所有にかかる造作、設備の破損または故障により修理の必要を生じ又は生じるおそれがあるときは、乙(賃貸人)は速やかに甲に通知しなければならない。」などの条項が必要になるかと思われます。

また新法は、①賃借人が賃貸人に修繕が必要であると通知し、あるいは賃貸人が修繕が必要と知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に修繕しないときや、②急迫の事情があるとき、賃借人において修繕することができると定めました(新法第607条の2)。
この場合、賃借人は賃貸人に対して修繕費用を請求することができます(新法第608条第1項)。

5【賃借人の保証人】

ポイント 賃借人の債務の保証も個人根保証契約です。

(1)〔個人根保証契約には上限の定めが必要〕

第2、1(3)でご説明した通り、個人根保証契約においては上限を決める必要があります(新法第465条の2第2項)。上限は確定的な金額でなければなりませんので、賃料の記載がないまま、単に「極度額は賃料の△ヶ月分」と記載するだけでは保証契約が無効になります。
「極度額は○○万円」とハッキリ書くか、あるいは「賃料は月額10万円」と記載した上で、「極度額は賃料の○ヶ月分」と記載する必要があります。

(2)〔賃借人の死亡や破産〕

第2、1(5)でご説明した通り、主債務者が死亡したときや、破産したとき、個人根保証契約の元本が確定します(新法第465条の4)。
したがって、賃借人が死亡したり、破産した場合、その時点における賃借人の債務をもって保証人の責任の範囲が確定します。

(3)〔賃貸人の情報提供義務〕

第2、3(1)でご説明した通り、保証人の請求があれば、賃貸人(債権者)は、賃借人の未払いの有無等を遅滞なく情報提供する必要があります(新法第458条の2)。

6【施行時期】

2020年3月31日以前の契約に関しては旧法が適用されます(附則第34条第1項)。

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