債権法改正のポイント8 請負

1【請負人の請負代金請求権】

(1)〔完成前の請負代金請求〕

ポイント 出来高に応じた請負代金請求権が明記されました。

建設会社やハウスメーカーがビルや住宅を建築し、施主が建設工事代金を支払うように、一方(請負人)が「ある仕事を完成させること」を約束し、他方(注文者)が「その仕事の結果に対しその報酬(請負代金)を支払うこと」を約束する契約を請負と言います(新法第632条)。

請負は「仕事を完成させること」を約束する契約ですので、請負人は仕事を完成させない限り請負代金を請求することができないのが原則ですが、建築工事などでは請負代金が多額になります。
したがって、ある程度工事が完成しているにもかかわらず、「完成していない」ことを理由に、注文者は請負代金全額の支払いを免かれ、請負人は請負代金を1円も請求できないのでは公平ではありません。

そこで、最高裁判例も、住宅の空調工事を請負い、配管工事が終了したにもかかわらず、注文者がボイラーの設置を拒んだために工事が完成しなかったケースや(最高裁判決昭和50年2月22日)、請負人が工事の49パーセントを完成させたものの、倒産したために完成させることができなかったケース(最高裁判決昭和56年2月17日)において、注文者に対して出来高に応じた請負代金の支払いを命じています。

新法はこれら判例法理を整理して、仕事の完成前であっても、

㋐ 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき、または、
㋑ 請負契約が仕事の完成前に解除されたとき
であって、
㋒ 請負人が既に完成させた仕事の結果うち可分な部分を引き渡すことによって注文者が利益を受ける場合には、
請負人に仕事の完成した割合に応じた報酬請求権を認めました(新法第634条)。

もっとも、建築請負工事の実務においては、仕事の完成時に請負代金金額を支払うのではなく、注文者は工事着工前(前渡金)や工事期間中(中間金)、そして完成時の各時点で、工事完成前でも段階的に請負代金を支払う「特約」が定められていることが多いです。

(2)〔注文者に帰責事由があって、工事が完成しない場合〕

(1)でご説明した通り、新法は「注文者の責に帰すことができない事由」によって請負工事が完成しない場合、請負人にその出来高に応じた請負代金請求権を認めていますが、逆に「注文者の責に帰すべき事由」、例えば注文者の失火や正当な理由になく注文者が拒絶したために請負人が仕事を完成させることができなくなった場合はどうなるのでしょうか。

この場合、請負人は仕事が未了な部分も含めて請負代金全額を請求することができますが、例えば使わずに済んだ材料や手間などがあって、利益を受けたときは、その利益を注文者へ返さなければなりません(新法第536条第2項)。

2【担保責任に関する条文を削除】

ポイント 請負独自の制度は廃止されました。

旧法は、例えば「仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。」などと定めた請負人独自の担保責任に関する条文がありましたが(旧法第634条、同法第635条、同法第638条など)、新法はこれらの条文を削除しました。

それでは、新法では欠陥工事をしても請負人は何ら責任を負わないし、注文者は「泣き寝入り」しなければならないのでしょうか。
もちろんですが、そんなはずがありません。

旧法では請負だけの独自の担保責任が定められていましたが、新法では他の契約(売買その他)と同様のルールが適用されます。
すなわち、売買に関する規定は、売買以外の有償契約(対価を支払う契約)にも準用されますので(新法559条)、仕事の目的物に瑕疵があった場合、売買における売主の担保責任に関する条文が適用され、注文者は請負人に対して、①修理(新法第562条)や、②代金の減額(新法第563条)、③損害賠償や契約解除(新法第564条)を請求することができます。

3【建物に関する例外の廃止①】

ポイント 建物の請負契約も解除可能になりました。

旧法においては、瑕疵(欠陥)があり、そのために契約の目的を達成できないとしても「建物その他土地工作物」に関する請負契約は解除することができないと定めていました(旧法第635条但書き)。
その立法理由に関して「建物その他土地工作物」については請負代金額が多額であるため、社会経済的な損失が大きいためだと説明されていましたが、欠陥があって、役に立たない土地工作物なのに解除することができないのは注文者にとって酷です。
このため、旧法下においても、最高裁判例は、建物の欠陥によってその契約の目的を達成することができないケースにおいて、請負人に対して建替費用相当額の支払いを命じており(最高裁判決平成14年9月24日)、実質的には解除と同様の効果を認めていました。

そこで、旧法第635条は削除されました。この結果、たとえ建物や工場などの「土地工作物」に関する請負契約であったとしても、注文者が欠陥の修理を求めたにもかかわらず請負人が相当な期間内に修理しなかった場合や(新法第541条)、請負人が修理を拒絶した場合、あるいは欠陥によって契約の目的を達成できない場合(新法第542条)、注文者は請負契約を解除することができます。
契約が解除されたなら当事者は原状回復義務を負いますので(新法第545条第1項)、請負人は既に受領している請負代金について金利を付して返還しなければなりませんし(新法第545条第2項)、加えて注文者は損害賠償を請求することができます(新法第545条第4項)。

4【担保責任の期間】

ポイント 請負の担保責任も「知った時」から1年以内です。

2でご説明した通り、旧法では請負独自の担保責任が定められていましたが、新法はこれらを廃止しました。したがって、請負人の担保責任の存続期間に関しても、売買と同じルールが適用されるようになりました。

すなわち、旧法では、注文者は目的物を引き渡された時から1年以内に修理等を請求しなければならないと定めていましたが(旧法第637条第1項)、新法では、注文者が欠陥(契約不適合)を「知った時から1年以内」に請負人に通知しないと、修補や代金減額、損害賠償、解除を請求できないと改正されました(新法第637条第1項)。
つまり、第1、1でご説明した消滅時効と同様に旧法では「引き渡し」と言う客観的な時点が起算点でしたが、新法では「知った時」と言う主観的な時点が起算点になります。

但し、請負人が不適合を知りながら注文者に引き渡していた場合には1年以内の期間制限は適用できません(同法第2項)。
とは言え、注文者はいつまでも担保責任を追及できる訳ではありません。第1、1でご説明した消滅時効期間の制限があります(新法第166条第1項)。

5【建物に関する例外の廃止②】

旧法では、「建物その他土地工作物」に関する担保責任の存続期間に関して「引渡し」の時から5年間、但し「石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物」は10年間と定められていました(旧法第638条第1項)。
建物その他土地工作物に関しては欠陥の発見が容易ではないために、特別に長期間の存続期間が定められていました。

しかし、4でご説明した通り新法では担保責任の存続期間は「引渡し」の時からではなくて、注文者が不適合を「知った時」からに改正されました。
したがって、土地工作物についてだけ特別に長い期間を定めておく必要がなくなりましたので、旧法第638条は削除されました。

なお、住宅(人の住居の用に供する家屋又は家屋の部分。住宅の品質確保の促進等に関する法律第2条第1項)を新築する建設工事の請負契約においては「住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の侵入を防止する部分」については、請負人の担保責任の存続期間を引き渡しの時から10年と定める特則があり、たとえ契約でこの期間を短縮したとしても無効です(住宅の品質確保の促進等に関する法律第94条第1項、同条第2項)。

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