債権法改正のポイント5 売買

1【担保責任】

(1)〔全ての売買に適用されるようになりました〕

旧法においても売主の瑕疵担保責任に関する条文があり、そこには「売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき」、すなわち買主の知らない欠陥があった場合、その欠陥によって契約を締結した目的を達成することができないときは買主は売買契約を解除することができる、目的を達成できないとまで言えない場合、買主は損害賠償の請求だけができると定めていました(旧法第570条)。

ところが、この「売主の瑕疵担保責任」のルールが適用されるのは、全ての売買契約ではなく、「特定物」と呼ばれる、その物の個性に着目して取引される物、例えば不動産や、中古自動車、美術品、骨董品などに限られると通説は解釈していました。
何故ならば、不特定物の売買契約において目的物に欠陥があれば、売主の債務不履行(不完全履行)になるが、特定物の売買契約においては、売主の債務は当該特定物を引き渡すことで尽きており、たとえその特定物に欠陥があったとしても買主は売主に対して債務不履行責任を追及することができない、しかし、それでは買主はせっかく売買代金を支払ったのにそれに見合った物を手にすることができない、そこで、売主には担保責任という特別な責任(法定責任)が課せられていると考えられていました。

しかし、具体的な取引において、その目的物が特定物か、不特定物かの判断が容易ではない場合もあります。
そこで、新法は、特定物であれ、不特定物であれ、売主には種類、品質、数量に関して契約内容に適合した目的物を買主に引き渡すべき債務を負っており、したがって、引き渡された目的物が契約の内容に適合していない場合は債務不履行(契約責任)であると整理した上で、担保責任について、次の通り規定されました。

(2)〔担保責任の内容〕

ポイント 契約不適合であれば、①修理、②交換、③不足分の引き渡し、④代金減額、⑤損害賠償、⑥解除を請求することができます。

引き渡された目的物(例えば、売買契約における商品)が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であれば(これを「契約不適合」と言います)、

① それが特定物であっても、不特定物であっても、
② 売主は買主に対して「担保責任」を負い、買主は売主に対して、次の通り「追完」を請求できます(新法第562条第1項)。
  ㋐ 修補(修理)
  ㋑ 代替物の引渡し(交換)
  ㋒ 不足分の引渡し
③ さらに、買主が相当の期間を定めて追完を請求したにもかかわらず、売主がこれに応じなかった場合、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(新法第563条第1項)。
④ 買主は、一般原則の通り、契約違反を理由に損害賠償を請求することも、契約を解除することもできます(新法第564条、同法第415条第1項、同法第541条、同法第542条)。
⑤ 但し、契約不適合の原因や責任が買主にある場合、買主は追完も、代金の減額も、損害賠償も、解除も請求することができません(新法第562条第2項、同法第563条第3項、同法第415条第1項、同法第543条)。

(3)〔担保責任の期間制限〕

ポイント 担保責任は買主が「知った時」から1年間

売主の担保責任については、1年間の期間制限があります。すなわち、買主が種類、品質に関する不適合を知った時から1年以内に売主に契約不適合を通知しなかった場合、買主は追完も、代金の減額も、損害賠償も、解除も請求することができません(新法第566条)。
この点、(1)でご説明した通り、旧法では、不特定物に関しては債務不履行(不完全履行)のルールで処理されていましたので、消滅時効期間は10年でした(旧法)。不特定物に関しては、とりわけ期間制限に注意する必要があります。

もっとも、この1年間の期間制限は「種類又は品質」に関する契約不適合にだけ適用されるルールです。「数量」に関する契約不適合(数量不足)や権利移転義務(新法第565条)に関しては適用がありませんので、数量や権利移転に関しては、第1、1でご説明した通り5年あるいは10年の消滅時効の一般原則に従います。
また売主が種類、品質に関する不適合を知っていたとき、あるいは知らなかったことについて重大な過失があるときも、同様に1年間の期間制限は適用されません(新法第566条)。

2【危険負担】

売買契約が成立した後、売買の目的物が売主、買主どちらにも責任がない事故で滅失、損傷してしまった場合(例えば、売買契約後、売主の倉庫に保管している間に地震が起こって、目的物がつぶれてしまった場合)、買主はそれでも契約通り売買代金を支払わなければならないのか、あるいは売主の代金請求権も消滅してしまうのかについては「危険負担」と呼ばれています。

この点、旧法では、特定物に関しては契約の時から(旧法第534条第1項)、不特定物に関しては、どれかに特定した時(例えば新品のテレビの売買であれば、売主と買主とで「このテレビにします。」と決めた時)から(同法第2項)、目的物が滅失、損傷したとしても、その滅失、損傷に関して売主に責任がなければ、買主は代金を支払わなければならないと定められていました。
したがって、買主は契約通りの目的物を引き渡してもらえないのに、代金を契約通り支払わなければなりませんでした。

しかし、この「結論」が不当なために、従来も実務では契約書に「目的物の引渡しの時から危険は移転する。」と記載し、特定物があっても、不特定物であっても、売主の倉庫にある間に地震でつぶれてしまったなら、売主は代金を請求できないけれど、買主に引き渡した後、買主の倉庫にある時に地震が起きて、つぶれてしまっても、買主は代金を支払わなければならないと、民法の「結論」は修正していました。

そこで、危険負担に関する旧法第534条は削除されました。その上で、新法第567条第1項は「売主が買主に目的物を引き渡した場合」は「その引き渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰すことができない事由によって滅失し、又は損壊した」としても、買主は「履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」し、「代金の支払いを拒むことができない」と定めて、これまでの実務を追認しています。

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