債権法改正のポイント2 保証

1【根保証の制限】

(1)〔根保証の意味〕

他人(「主債務者」とか「主たる債務者」と言います)の債務を「保証」した者は、他人がその債務を履行しない場合(貸金債務なら支払わない場合)に、その債務を他人に代わって履行する(貸金債務なら支払う)責任を負います。
この保証人によって保証される他人の債務を「主たる債務」とか「主債務」、保証人の債務を「保証債務」と言います(民法第446条第1項)。

保証債務の中でも、「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」を「根保証」とか「根保証契約」と言います(新法第465条の2第1項)。つまり、根保証においては契約時には保証の対象となる債務(保証人が責任を負う範囲)が確定していません。
根保証には、次のような類型があります。

① 信用保証
継続的な取引がある仕入れ先からの買掛金や、金融機関との間で継続的に借入と返済を繰り返す借主の債務の保証です。
入院時の患者の治療費に関する連帯保証もあります。

② 不動産賃貸借における賃借人の債務の保証
例えば、賃貸マンションの賃借人の保証人です。

③ 身元保証
従業員の使用者に対する損害賠償債務に関する保証人です。
なお、身元保証については、親戚付き合いなどから断り切れずに引き受けてしまい、その結果、予期しない保証債務を負担してしまうことが多いので、昭和8年に「身元保証ニ関スル法律」が制定され、保証債務の存続期間を5年に制限したり(同法第2条)、使用者に対して従業員に「不適任」や「不誠実」があったり、従業員の「任務」や「任地」を変更したら保証人へ通知する義務を課し(同法第3条)、これら通知を受けた場合に身元保証人には身元保証契約の解除権を付与し(同法第4条)、裁判所に対して身元保証人の賠償義務を制限する裁量権を認める(同法第5条)などして、身元保証人の保護を図っています。

(2)〔根保証の悪用と平成16年改正〕

根保証に関しては、かつて「商工ローン」と呼ばれた高利貸し(日栄や、商工ファンド)がこれを悪用して、保証人に対して容赦ない取り立てを行っていました。「目玉を売って返済しろ。」などの脅迫はまだご記憶に新しいところではないでしょうか。

そこで、2004(平成16)年に、
① 保証契約は書面で契約しなければ効力を生じない(民法第446条第2項)、
② 主たる債務に貸金債務か、手形の割引を受けることによって生ずる債務が含まれる根保証で、保証人が法人ではない場合(個人貸金等根保証契約)は、保証人の責任の上限(極度額)を定めなければ、効力が生じない(旧法第465条の2第2項)、
③ 個人貸金等根保証契約の存続期間に関して、元本確定期日の定めがなければ個人貸金等根保証契約締結の日から3年を経過した日をもって元本が確定する、元本確定期日を定めたとしても5年を超えることはできない、5年を超える期間を定めた場合、その定めは無効になり、3年と取り扱う(旧法第465条の3)
と改正されました。

ちょうど、私が参議院議員に初当選した直後の臨時国会でした。

(3)〔範囲の拡大-貸金に限らない。〕

ポイント 貸金に限らず、個人根保証契約は上限の定めが必要です。

しかし、貸金にだけでなく、その他の根保証においても、保証人が予想を超える過大な債務を負担してしまう事態が発生してしまいます。
そこで、新法は、

① 保証契約は書面でしなければ効力を生じないというルールはそのまま維持しつつ、
② 根保証に関しては主たる債務が貸金等の場合に限らず、その他の債務であっても、保証人が法人でない場合(個人根保証契約)は、

保証人の責任の上限(極度額)を定めなければ効力が生じないと改正されました(新法第465条の2第2項)。したがって、例えば、

㋐ A社がB社から継続的に商品を仕入れており、その代金はその都度支払わず、月末に締めて、翌月のA社の支払日に支払うという継続的な売買契約において、A社のB社に対する買掛金債務を、A社の社長、C男が連帯保証するケース【継続的売買における根保証】や、
㋑ A(賃借人)がB(賃貸人)から賃貸マンションを賃借するにあたって、Aの賃料や原状回復費用など賃貸借契約に基づいてAがBに対して負担する債務をCが連帯保証するケース【賃借人の連帯保証人】、
㋒ AがB病院に入院し、あるいはB介護施設に入所するにあたって、AがBに対して負担する入院あるいは入所費用についてCが連帯保証するケース、
㋓ A(従業員)がB社へ採用されるに際して、CがAの身元保証人になったケース【身元保証人】、

などに関しても、CがBに対して保証する債務の上限を決めておかなければ、その根保証契約が無効になってしまいます。

但し、C(保証人)は法人ではない場合です(新法第465条の2第1項)。保証会社のような法人が保証人になる場合は上限を定めておく必要はありません。法人に関しては保証債務額が過大になったとしても、それによって生活の破綻など深刻な事態は直ちには生じないからです。

したがって、債権者サイドからすると、保証会社の根保証を利用し、その保証料については債務者へ負担を求めるケースが増えてくると思われます(例えば、賃貸マンションの賃貸人は、賃借人の家賃その他の債務の保証を保証会社へ委託し、保証会社に支払う保証料を賃料に上乗せしたり、あるいは賃貸人は、賃借人の家賃その他の債務の保証を保証会社へ委託し、賃貸借契約において、賃借人は保証会社の保証料を支払うことが義務づけられるるケース)。

(4)〔個人貸金等根保証契約の期間〕

ポイント 主たる債務が貸金等の場合、個人根保証契約は5年以内です。

一方において、(2)③でご説明した通り、平成16年、主たる債務に貸金債務等が含まれる根保証で、保証人が法人ではない場合(個人貸金等根保証契約)の存続期間に関して、元本確定期日の定めがなければ3年、元本確定期日を定めたとしても5年を超えることはできないなどと改正されました。

他方、新法は(3)でご説明した通り、個人根保証契約において保証人の責任の上限を決めておかなければならないことに関しては、主たる債務が貸金等の場合に限らず、その他全ての債務に拡大しましたが(新法第465条の2第1項)、存続期間に関しては、その適用範囲を広げていません。従前と同様に、個人貸金等根保証契約に限って存続期間の制限があります(新法第465条の3)。

と言うのも、借地借家法によって、借地契約に関しては30年以上存続し(借地借家法第3条ないし同法第6条)、借家契約に関しても更新拒絶や解約の申入れには「正当の事由」が必要なため(同法第28条)、賃借人が希望すれば長期間存続します。
このため、存続期間の制限を個人貸金等根保証契約以外にも拡大してしまったなら、(3)㋑のケースで不動産賃貸借契約(マンション賃貸借契約)終了前に保証契約が終了してしまうことが斟酌されました。

したがって、新法においても、個人貸金等債務等根保証契約においては、

㋐ 元本確定期日の定めがない場合と、
㋑ 元本確定期日の定めがあっても、個人貸金債務等根保証契約締結日から5年を超えた日と定めている場合は、
個人貸金等債務等根保証契約が締結された日から3年が経過した時に元本が確定しますので、その時点で個人貸金等根保証契約は終了します。
㋒ 個人貸金債務等根保証契約締結日から5年を超えない日を元本確定日と定めている場合は、
その日をもって元本が確定し、個人貸金等根保証契約は終了します。

個人根保証契約 個人貸金等根保証契約
責任の上限(極度額) 上限を決めないと、根保証契約は無効
期間制限(元本確定期日) 制限がない。 3年間。長くても5年間

(5)〔元本の確定〕

(1)でご説明した通り、根保証契約においては、その契約時には保証人の責任の範囲が確定していませんが、一定の出来事によって保証人の責任の範囲が決まります。これを「確定」と言います。

そして(4)でご説明した通り、個人貸金等根保証契約においては3年ないし5年以内の元本確定日が到来したら、その時、主債務者が負担する債務をもって保証人の責任の範囲が確定します。

この元本確定日以外にも、
① 個人根保証契約においては、
  ㋐ 債権者が保証人に対して強制執行、担保権実行を申し立てたとき、
  ㋑ 保証人が破産開始決定を受けたとき、
  ㋒ 主債務者か、保証人が死亡したとき
に確定します(新法第465条の4第1項)。

② 個人貸金等根保証契約においては、これらに加えて、
  ㋓ 債権者が主債務者の財産について強制執行、担保権実行を申し立てたとき、
  ㋔ 主債務者が破産開始決定を受けたとき
に確定します(新法第465条の4第2項)。

〔「時」と「とき」〕
私が、ここまで「権利を行使することができると知った時」や「権利を行使することができる時」は「時」、「協議すると書面で合意したとき」や「保証人が破産開始決定を受けたとき」では「とき」と表記して、使い分けしていることにお気付き頂いたでしょうか。
法律用語において「時」は時点を表します。これに対して、「とき」は場合を意味します。

2【第三者保証の制限】

ポイント 事業のための貸金(借金)に関する第三者保証は、その前に公正証書を作成する必要があります。

(1)〔保証人になったばかりに生活が破綻する例〕

A社(中小零細企業)がB銀行(金融機関)から融資を受ける際に、A社のB銀行に対する債務をCが保証するケースがあります。
この場合、CはA社の経営者である場合もありますが、経営者の親族や友人、取引先、従業員、同業者らがA社やその経営者から「絶対に迷惑をかけないから。」と頼み込まれて、断ると取引を打ち切られてしまう、会社に居づらくなるなどのおそれや、義理のために嫌々保証人になってしまうことがあります。
その後、案の定A社が倒産してしまい、その結果、Cは予期しない、多額の保証債務を背負ってしまい、自己破産や自殺、夜逃げなどを余儀なくされたという、保証人になったばかりに暮らしが破壊されてしまった例は枚挙に暇がありません。

(2)〔リスクは誰が背負うべきか?〕

しかし、(1)の例で考えると、融資のプロであるB銀行は、自らの判断でA社に融資しています。しかも、融資によって金利という「利益」も得ています。
A社が倒産し、A社への融資の回収ができなくなってしまったのはCのせいではなく、B銀行の「目利き」が間違っていたからです。
そうであれば、A社が倒産して、融資したお金を回収できないリスクはB銀行が負担するべきであって、融資のプロでもなく、保証人になったことに関して「利益」も得ていない、「素人」のCに押しつけてしまうことが「正義」に適うとは言えません。
それ故に、私はA社の「身内」ではない者(例えば、取引先や従業員、友人、親戚など)、すなわち「第三者」を保証人にすること自体を法律で禁止するべきだと考え、何度も議員立法を提出していました。

今回の債権法改正において「身内」でない者を保証人にすること(これを「第三者保証」と言います)の不条理、不正義についてある程度理解が広がったと思いますが、第三者保証そのものを禁止するには至りませんでした。

(3)〔改正後のルール〕

ただ、新法は第三者保証に関して、次の通り制限を設けています。
まず「事業のために負担した賃金等の債務を主たる債務とする保証契約」や「主たる債務の範囲に事業のために負担する賃金等債務が含まれる根保証契約」に際しては、保証人になろうとする者が、保証契約に先立って公証役場へ行き、公証人に「保証人になりますから、主債務者が支払わなかったら、私が支払います。」と書かれた公正証書を作成してもらわなければなりません(新法第465条の6第1項)。

保証人が連帯保証する場合は「債権者が主債務者に対して催促したか、主債務者が支払えるかどうか、ほかにも保証人がいるかなどにかかわらず、自分が全額を支払います。」と書かれた公正証書を作成します。
ここまで公正証書に書いておくと、安易に保証人を引き受けることはないだろうとの配慮だと思われます。

公正証書の作成を要するのは、
① 事業のために負担する貸金債務や手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務等)を主たる債務とする保証契約か、
② 主たる債務の中に、事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約(新法第465条の6第1項)に加えて、
③ ①、②の保証人の主債務者に対する求償権についての保証債務、主たる債務に①、②の保証人に対する求償権が含まれている根保証契約(新法第465条の8第1項)であって、
④ 保証人が法人ではない場合(新法第465条の6第3項、同法第465条の8第2項)
です。

しかも、公正証書は保証契約を締結する日の前1ヶ月以内に作成されたものでなければなりません(新法第465条の6第1項)。
保証契約の前1ヶ月以内に公正証書を作成することなく、保証契約を締結したとしても、その保証契約は無効になります(新法第465条の6第1項)。

(4)〔公正証書を作成する必要がないケース〕

「事業のために負担した賃金等の債務を主たる債務とする保証契約」や「主たる債務の範囲に事業のために負担する賃金等債務が含まれる根保証契約」を締結する場合でも、下記の者が保証人になる場合は、公正証書を作成する必要がありません(新法第465条の6第3項、同法第465条の9)。

① 保証人が個人ではなく、法人の場合
② 主債務者が法人の場合で、
  ⓐ その法人の理事、取締役、執行役
  ⓑ 法人が株式会社で、総株主の議決権の過半数を有する者
③ 主債務者が個人の場合で、
  ⓐ 主債務と共同して事業を行う者
  ⓑ 主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

①に関しては1(3)でご説明した通り、生活の破綻などの問題が生じないからです。
②、③に関しては、主債務者の「身内」、すなわち事業の状況をよく知る立場にあるからです。

なお、②の典型的なケースは、会社の借入に関してその会社の経営者が保証人になる場合です。これは「本人保証」とか「経営者保証」と呼ばれています。「本人保証」においても会社が倒産した場合に経営者やその家族の生活を困窮させますし、経営者の再チャレンジを阻害してしまいます。我が国の金融機関は不動産担保や保証に頼り過ぎています。
「本人保証」に関しては金融庁・中小企業庁のガイドラインによって制限する方向が示されていますが、近い将来、法律上も制限する必要があると、私は思っています。

③のⓑは、例えば夫が営む寿司屋で、実際に夫と一緒に働いている妻です。単に夫の借金を妻が保証する場合は公正証書が必要です。妻も夫の事業に「現に従事している」場合に限って、公正証書が必要ありません。

以上、保証契約に先立って、公正証書を必要とするルールを整理すると、次の通りです。

主債務者 事業者
主たる債務 ① 事業のために負担した貸金債務等か、
② 主たる債務に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証か、
③ ①か、②の求償権
保証人 (4)の②、③を除く個人

(5)〔主債務者の情報提供義務〕

(1)で述べた通り、誰かに保証人になって欲しいと頼む場合、大抵の者は「絶対に迷惑をかけないから。」と「約束」します。しかし、この「約束」は当てになりません。
そこで、新法は、主債務者が「事業のために負担した賃金等の債務を主たる債務とする保証」や「主たる債務の範囲に事業のために負担する賃金等債務が含まれる根保証」を委託するにあたっては、保証人になろうとする者に対して、

㋐ 財産と収支の状況(収入だけではなく、収支)
㋑ その他に負担している債務の有無と額、支払い状況
㋒ 担保として提供するものがあれば、その内容
に関する情報を提供しなければなりません(新法第465条の10第1項)。

もし主債務者がこれらを説明せず、あるいはウソの説明をした場合に、債権者も主債務者が情報提供していないこと、あるいはウソの情報を提供していると知っていたとき、あるいは知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができます(新法第465条の10第2項)。
但し、この情報提供義務に関しても、保証人が法人でない場合に限って適用されます(新法第465条の10第3項)。

3【保証人への情報提供義務】

(1)〔保証人の請求に応じた情報提供義務〕

保証人になったとき、主債務者がちゃんと支払っているか心配です。そこで、新法は保証人の請求があれば、債権者は、保証人に対して、遅滞なく、未払いの有無や残額、支払時期が到来している額等を知らせなければならないと定めました(新法第458条の2)。

(2)〔主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務〕

住宅ローンのように分割して支払う契約において、約束した分割金の支払いを滞り、その結果、債権者から残額を一括して支払うよう請求されてしまうことを「期限の利益の喪失」と言いますが、主債務者が期限の利益を喪失した場合、債権者から、2ヶ月以内に、保証人に対して、主債務者が期限の利益を喪失したことを通知しなければなりません(新法第458条の3第1項)。債権者が、保証人に通知しなかった場合、債権者は保証人に通知するまでの間の遅延損害金を請求することができません(同法第2項)。
但し、この通知を要するのも、保証人が法人ではない場合です(同法第3項)。

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