債権法改正のポイント4 定型約款

1【規制の必要性】

イギリスの法学者、メーンが封建社会から近代社会への進化を「身分から契約へ」と表現した通り、民法が制定され、対等な当事者間の自由な契約が保障されました。

しかし、この120年の間に契約の大半は寡占企業と消費者との消費者契約が占めるようになりました。金融機関で預金口座を開設する際や、携帯電話を購入する際に金融機関や携帯電話会社が「約款」という小さな文字で書かれた複雑なルールを持ち出してきたために嫌な思いをした方は多いと思います。
銀行預金や、携帯電話に限らず、生命保険、損害保険の加入や、電気・ガスの購入、電車・バス・航空機の利用、スポーツクラブの加入、宅配便の利用、インターネットの利用、ネット通販、コンピュータソフトの利用等など、私たちの前に約款が登場する例は文字通り枚挙に暇がなく、私たちの暮らしはその隅々にまで約款で規制されています。

しかも、事業者と消費者との契約においては契約条件等の交渉はなく、消費者においては約款を「丸飲み」した上で契約するか、契約を諦めるかの選択肢しかありませんが、約款は事業者が、自らの利益、都合だけを考えて一方的に作成するため、消費者にとっての不意打ちや極めて不利益な条項が数多く含まれています。

また契約は契約内容を認識、理解した上での当事者間の合意ですが、約款に関して消費者の大半は一読さえしていません。したがって、そもそも消費者が約款に拘束される根拠についても疑義があります。
そこで、新法は約款に関する規定を置くとともに、その内容を規制して、消費者保護を図っています。

2【約款の拘束力と制限】

まず新法は、ある特定の者(事業者)が不特定多数の者(消費者)を相手方として行う取引で、その内容の全部または一部が画一的であることが、双方にとって合理的なものを「定型取引」、定型取引において契約の内容とすることを目的として事業者によって準備された条項の総体を「定型約款」と定義した上で、①定型約款を契約の内容とすると合意した場合か、②事業者が予め定型約款を契約内容にすると消費者に表示している場合には消費者も定型約款に拘束されると定めました(新法第548条の2第1項)。

しかし、それでも、
㋐ 消費者の「権利を制限し、又は義務を加重する条項」であって、
㋑ その定型取引の態様や実情、社会通念に照らせば、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と定めた民法の基本原則(民法第1条第2項)に反して消費者の利益を一方的に害すると認められる場合には、
その定型約款は契約内容にならないと定めました(新法第548条の2第2項)。

具体的な適用例は、今後、判例の集積を待つ必要がありますが、例えば、消費者に対して過大な違約金の支払いを命じる条項、事業者に故意や重過失があったとしても事業者が損害賠償義務を負わないと定めた条項、不当、過剰な抱き合わせ販売などが想定されます。

3【約款の変更】

従前、契約後に事業者が消費者の同意を得ることなく、約款を一方的に変更してしまうこともしばしばでした。
しかし、本来、契約においては、既に成立した契約の内容を相手方の同意を得ることなく一方的に変更することは許されません。約款を利用した契約であっても同様ですが、その一方で、法令が改正されたときなど約款を変更せざるを得ない場合があります。この場合、不特定多数の消費者全てから個別に同意を得ることは事実上不可能です。

そこで、新法は、事業者が、一方的に定型約款を変更することができるのは、
㋐ 消費者の一般の利益に適合する場合(消費者に有利な変更)か、
㋑ 契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更することがあると定められていたか、その他の変更に関する事情に照らして合理的である場合(消費者に不利な変更)
であると定めました(新法第548条の4第1項)。

また手続的にも、事業者は変更の効力発生時期を定めて、変更することや、変更内容、効力発生時期をインターネットなどを利用して、消費者に対して適切に周知しなければならず(新法第548条の4第2項)、変更の効力発生時期までに適切な周知をしなければ、変更の効力が発生しないと定めています(新法第548条の4第3項)。

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